腹立ち紛れに老骨を蹴ってみる

家族のフリして、母も祖父も完足できない個体であって、息子らに甘え掛かることの出来ない寂しさを抱えている
隠しきれずに漏らしている
息子は息子で、何事かもわからない何某かの退屈に蝕まれて、何もしないで寝転んでいるだけ
けれど呑気でいるので、これでは一体何と戦っているんだか

ただ、母の甘えは僕には荷が勝ちすぎているということだけはわかって
祖父の甘えが僕の叶えられる望みの範疇の外にあることだけはわかって
けど憐れむこともせず僕も僕の寂しさを押し付けるのだから彼らと同類
僕は疑いなく彼らの子だ

「洗濯物、誰も手伝ってくれなかった……」拗ねた顔と声音で僕らに甘える母のことを僕は気持ち悪いと思う
家事なんか頼まれなきゃ絶対にやりたくないというのは僕らの生活スタイルの違いから来ていて
独り立ちすればいいのだろうけど、母親達はことあるごとに帰省をせがむので摩擦が生まれるのも否応ないことで
結局子供に甘えること自体間違っているんだ
祖父も祖父でさ、孫が自分に関心を示さなくなったらふてくされてさ、
プライドもあるから拗ねた心も隠して、隠しきれなくて不機嫌なのがバレバレでやんの
隠せないんじゃなくて言葉にする方法すら知らないんだけどさ
自分の気持ちにすら気づけないわけ

子供がほしい、孫がほしい、それはあなたの勝手なのですが、
僕は人がその人の勝手を表明するのに弱いから
あなたの涙を拭ってあげたいし、
よそ行きや堕落についていて慰めてやりたいし、
端目で見られると僕はなんて怠け者なのかと自戒せざるを得ないし、
僕に結婚を望むのならそうしないでいたいと思うのは悪いな
などと後ろめたさを感じるのです
それは僕の優しさではありません
これは僕の怯えです
打擲しないで!見捨てていかないで 失望しないで
とっくに失望してることくらいわかってるんだけどさ?
あなたはそれを隠して
あなたの甘えたい気持ちを叶いたいばかりに
あなたはそれを僕から隠して
あなたは報酬を先払いして僕のもとにいつまでも留まり続けているから
嘘ついて、十一で貸し付けて、それで優しい眼差し一つ向けることも出来ないくせにだよ
そんな鐚銭で僕らの歓心を買おうとしてるの
(働きたくないでござる!働きたくないでござる!)
働きたくないんです
勉強したくないんです
それがわからないようなのですね なんでそう思っているのか
あなた達がね
僕から命を奪い取っているというのよ
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暗闇の中、背中、母と姉との体から僕を護って
夏と違って分厚い掛け布団が僕の砦
ありの子一匹どころじゃない
水も漏らさぬ
いいえ
差し伸べられた手ですら拒むことができない
脆い砦
その中で


晦日と元日は特別な日だと認識していたので
なんてことのない日常と過ぎてしまったその二つは
空間歪曲率の極大なワームホールを潜り抜けたかのようにして
昨日は1月2日
明日は1月4日
それから一昨日は12月30日
ヤヌスの双頭はよじれてひしゃげて宇宙の隙間にいなくなってしまったのです


帰省しないで年を越したい
越してみたかった
子供は年寄りの冥土の土産だ
満足もしないのに手元に置いて一体何が楽しいのかわかりかねるけど、もう祖父にも友達や話し相手が居ないのだろう
耳も遠くなって
夏には妻も亡くして
ともにいたってお互いに気分良くなることないのに
ごちそう食べて幸せな家族、なんでやっててもあなたすぐ食卓から引っ込むくせに
わかってるんでしょ 無理があるってことくらい
介護に疲れて妻の死を願った そのことは呪いのように彼の体を蝕んで疲れさせているのだ
老いた体はますます老いて
矍鑠としていたはずの精神は見る影もなく、顔には老いが翳を落として
歩く背中にもいちいち陰を纏わせて
よく話もしたことのない人にまで「あの人も老いたね」なんて言われているのよ
軽くなった遺骨は墓の中だったり埋め立てられて個人の判別のできなくなったりして
もうこの家にはいない
もともといるかいないかわからなくなってたのだけれど、帰ってこない者の映し身はやっぱり映し身でしかなくて
祖母はますますいなくなってしまった
祖父は見合いの妻の死の床に、葬儀場に、焼き場や
焼き場や
葬式の晩の孫との大喧嘩に
体の半分を持っていかれて

かわいそう

なんてさ
自己と他人を弁別する言葉
異化してノエマを際立たせる言葉
かわいそうなのは祖父であるけれど、かわいそうに思う私はまるで祖父と区別がつかないのだ
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眠るべきとはわかっているのにね
懲りることなく暗闇でケータイをいじって
スマホのことを僕は頑なにケータイと呼び続けてしまう)
嫌な気持ちだろうな
少しは構ってくれるだろうと当てにしていた息子や孫には真っ昼間からぐーすか寝られて
そいで夜までケータイの光
堪ったもんじゃないよな
少しはわしやあたしのことを慰めろって
そう言いたいよな
でも無理
僕もわからないけれど
書きたくなくても
残さなきゃって思っているから
ごめんね
ごめんなさい
背中にいる母を感じて
そのきっと浸潤した股の間と
きっと尖っている乳首を思って
あなた、私に欲情しているのでしょう?
余りに脆い砦を、私もあなたも越えられないで
でもとっくにあなたは私を侵犯し征服してしまっているの
だから私は
かたり、と
ネズミの立てるような物音にも彼女らの顔色を窺って
暴力を振るわれたこともないのに
彼らの不機嫌に異常なほどまで怯えている
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涙はにじむ
あくび
目が乾いている
体も休みたいと言っている
書かねばならない
大した使命感も強迫もないのに
寝る間を惜しんで暇つぶしするのはほんとうに怪しいことだよ
そうだよね
みなさん
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母は懲りずに僕の方へ手を指し伸ばしてきていて
僕の振り向くのに合わせてサッと腕を引いて
客用の重たい掛け布団だけが私の安らぎの基地
あなたは