雑記6、昨年秋の陰気な言葉

 暇がある訳じゃないのに暇潰ししてる
 暇潰しじゃなくて、暇うずめなんだけど
 満たすもの探しなんだけど
 たまたま見つからないだけなんだけど



 ひたすら時間の流れから目をそらして無為な日々を無為に過ごしてきた
 しかしそろそろ現実に目を向けねばなるまい
 明日こそは歯車の噛み合った日に
 明日こそは充実して呼吸する日に
 くたくたになって絶望しながらも、毎夜翌日の消費から逃れることを望むのだ
 それがその度裏切られ、諦められ、気づけば休みはなくなっていて



 自分だけの感情が、現象としては否定し得ないだろうと書き続けてきたが、間違いだった
 結局、存在しない感情を、恣意的に選び加工して記述しているだけにすぎなかったのだ
 確かに思考は言語化によってはじめてそれとなるけど
 しかしそれは、選択しているという自覚や迷いなどあってはならないものだったはずなのだから


 美しさは所有するもので
 年月と共に所有できなくなるもので
 一度持ったものというのは手放したくないものでもあって
 しかし本当は所有ではなく貸与されたものであるから、
 失われゆくことは必定だけど誰もその事を潔しとできなくて



 苦しんで死ぬ



 ゆく先々のことを考えたくない
 先行き
 先行きは
 宿の食事や
 身の処し方や
 あらゆる先行き
 先にゆくことから
 目を逸らしていたい
 ゆく先々から
 目を逸らし続けていたい
 そんなものはないか

 ゆかない先々は
 ないものか



 気持ちが落ち込んでいて
 からだから力が抜けていて
 暗くもやもやしたものが充満していて

 虚脱

 とまでいかないまでに狂ったところで
 足は確と地を踏みしめて歩くので
 私は自分がどうだかわからなくなってしまうのです



 あたしはどうしてやくざな理解の仕方しかできないの
 哲学も音楽も社会も学問みんな
 やくざな記憶の仕方しかできないで
 さっさとわかった気になるか
 いつまでもなにも知らない十歳児童のように
 まんまるの瞳をばかみたいに見開いて
 周囲を奇異と困惑の視線で見渡すことしかできないの


 陰気で私的な言葉たち 日々のあぶく
 気取り屋 かっこつけ


 くたびれた衣服
 垢で光った襟ぐり
 胃下垂
 なまぐさな朝
 日溜まりに横たわる猫の腹
 煙草の煙る事務室
 斜に差し込む光 北向の部屋
 薄いミルク
 撫で肩
 鈍色の夕焼け
 赤褐色の沈澱
 机に凭せた左肘
 水平線に沈んでゆく
 一日
 落陽


 安定航行なんかないからこそ、大きく転覆することもまたあり得ない
 自分の判断に自信が全く持てないのだ
 自分のことは、まるで何にもならないと思い込んでいる
 反対に、他人の判断が僕のなかにするりと紛れ込んで、そういうものを軸に私は形成されるけど
 それを私が延長することはあり得なくて
 私は屍の累累たる塔を構成する塵芥にすらならないのだ

 だから私はスーパーでプリンを買って逃げ帰るの


 ああ死にたく 生産性のない夏


(死にたいと語る人々も私よりは生産性を産み出しているのだ 奇妙な言い回し)



 自分がわからないからそういうことするんだと思うの
 わかっていたなら、全くとは言わないけど、少ないんだと思うよ
 自分が不安定だから、そういうことして確かめようとするの
 わかる?


 俺がこれでいいのだと胸を張れるものを見つけるか
 そういうところに落ち着くか
 俺はどれでいいのだ?


 わからないから、肉体の快楽でお茶を濁して忘れるのだ
 手の届きやすいところにそれはあるから



 女一匹 出口なし
 そもそも
 なにが女かわからない

 男一匹 出口なし
 そもそも
 自分が男かわからない



 僕と一緒にいても誰も幸福にならないからさ
 だから緊急避難の友達付き合い以外
 深く関わり合いになることなんかさせられない
 僕も苦しいし、あなたも苦しいから
 恒常的にこんな人間の元にいたら毒が回ってしまうよ

(ならもっとも密接しているあなた自身の苦しみはいかばかりか?)

 そんなこと言ったって、僕は僕から離れられないのだから
 自己犠牲の精神じゃないよ
 やっぱり僕の苦しみはあなたの苦しみだから
 あなたの苦しみは僕の苦しみでもある
 人を苦しめる人を僕は迷惑な人だと思う
 それでなくとも、非本質的な人だと見棄てるくらいはするからさ

 せめてあたしはそんな人にだけはならないようにね
 そうしてあたしはあたしの身分を防衛するのよ



 だめだなあ
 なにか卓抜しているかと思うけど
 その実何にもしてないんだものなあ
 勉強しなければ
 能力も結実することはないのだからなあ



 想像もつかない想定
 反抗を許さない反抗期


 何にも興味や関心をもって働こうという気になれないのです
 それがわたしがたくさんのそれらをおとした理由
 そんな中でもリソースを使ってぎりぎり踏みとどまったのが六つ それだけだったのですから
 
 なんてね
 あなたにこんな話しても、通じないでしょうから
 通じたところで、あなたの同情を買うくらいしかできないのですから


(なんの物理的効用もなく
 なんの精神的修養もみえず
 仲間もつくらず
 ただ聞いてもらって消費されることもないだけの
 僕の言葉
 身銭を切った僕の言葉だ)