根腐れ

 何もしないで腐ってる
 やりたいことも見つからない
 いや、見つけようとも思えない
 このままじゃ良くないことは分かってる
 けれどすることといえば
 頑張ってる奴ばらを羨むことばかり
 自分の手をまじまじと見つめ
 指を 爪を 甘皮を 手の甲の肌理を見つめ
 そこにへばりついている陰毛も見つめ
 シャワーで洗い流してはまた見つめ
 二日ぶりに洗った頭の泡とともに流してしまった
 さっぱりした頭でまた考える
 おれは今何をしている?
 何も見ることなくただ通り過ぎている
 気付いて初めてバスタオルのかかり方の新鮮なのが分かる
 それまでは頭も視界も暗い霧の中
 そんなんではだめだ、わかってはいるんだけれど
 嘯いたそばから見つめた手のことはもう忘れてる
 何を考えればいいかもなくしてしまった
 バスタオルは変わらずそこにかかっているけど
 なくした記憶や思考はどこ見渡しても帰ってこなくて
 手を見つめれば十年前と同じ手がまだそこにあって
 けど本当に比べたらきっともう全然違って見えるんだ
 手を見つめても何もわかるようにはならないよ
 ……そんなことはわかってる
 けど、明確に自分と言えるものが顔の他には
 手くらいしか思い当たらないから
 そういうけれど、もう手は霧の中じゃん
 改めてまじまじ見つめても
 反省しているのは見てるときだけでしょ?
 認めたくないけどそうかも知れない
 親指のささくれが気になってるのに、僕の目は僕の手を見ていない
 ただささくれだけを見ている
 ささくれと白く残った爪の垢だけを気にしている
 昔から変わらない細やかな手
 けれど顎をこすれば角質が毛羽立って
 繊細な膚は白く傷ついてしまう
 昔と比べて節くれだった指
 少し肉付きも良くなった
 認めたくない
 認めたくない
 忘れないように何回も見返す
 けれど現前がいなくなれば
 僕の手は脳裏から霧の中へ消える
 髪の毛が渇いて頭皮が突っ張ってきた
 おセンチな気分ももう終わり
 再び僕は全身を霧の中へ浸してゆき
 明日のことを考えず眠る
 怒られそうなことを考えず眠る
 叱られないように工夫しながら眠る
 また暗い霧の中へ
 何も新鮮なことがない霧の中へ
  ああ
  退屈な世の中